Research

からくりの系譜

「木で作られた仕掛けが、動く」——この営みは世界中に存在します。 日本のからくり人形、スイスの精密オートマタ、オランダの風力彫刻、ロシアの振り子玩具。 YURAGIは、こうした「動く木」の文化的系譜の上に立つプロダクトです。

1796

機巧図彙 刊行

6,000

ジャケ=ドロの部品数

9代

玉屋庄兵衛の系譜

400年

ボゴロツクの伝統

日本のからくり

江戸時代、木と歯車で「自動」を実現した人々

1796年、細川半蔵が著した「機巧図彙」は、からくり人形の設計図を広く公開した世界初のロボット工学書とも言える文献です。 茶運び人形、弓曳き童子、文字書き人形——これらは木、鯨のヒゲゼンマイ、糸だけで構成され、 電気もモーターもない時代に複雑な自動動作を実現しました。

愛知県を中心に150基以上のからくり山車が現存し、 九代玉屋庄兵衛は290年続くからくり人形師の家系として2014年に「現代の名工」を受賞しています。

茶運び人形

江戸時代

茶碗を載せると動き出し、客の前で止まる。取ると戻る。

弓曳き童子

江戸時代

矢を取り、弓につがえ、的を狙い、射る。4段階の動作を自動で行う。

文字書き人形

江戸時代

筆を持ち、実際に文字を書く。カムの組み合わせで筆運びを制御。

段返り人形

江戸時代

階段をくるくると回転しながら降りる。重心移動のみで動く。

飯塚伊賀七(1762–1836)

谷田部(現つくば市)のからくり師。 酒を買いに行く自動人形、朝6時に開き夕方6時に閉まる門扉など、 暮らしに根差した自動化を木と歯車で実現した人物。 YURAGIが生まれたつくばには、からくりのDNAが眠っています。

西洋オートマタ

時計技術から生まれた、精密な自動人形

18世紀のスイスとフランスで、時計職人たちが培った精密技術はオートマタ(自動人形)へと発展しました。 ジャケ=ドロ父子が制作した「書家」は約6,000の部品で構成され、 カムを差し替えることで異なる文章を書くプログラマブルな機構を持っています。 現在もスイス・ヌーシャテルの博物館で稼働中です。

ジャケ=ドロの書家

1768–1774年 / スイス

約6,000の部品。カムを差し替えることで異なる文章を書く。現在もヌーシャテル博物館で稼働。

ヴォーカンソンのアヒル

1739年 / フランス

翼だけで400以上の可動部品。世界初のゴムチューブもこの作品で発明。

キャバレー・メカニカル・シアター

1979年〜 / 英国

現代オートマタの拠点。ポール・スプーナー、ティム・ハンキンら数十名の作家が参加。

キネティックアート

動くこと自体が美になる彫刻

1913年にデュシャンが自転車の車輪を台座に乗せて以来、 「動く美術」は一つのジャンルとして確立されました。 カルダーのモビール、ティンゲリーの機械彫刻、 そしてテオ・ヤンセンの風力歩行生物—— 美しくて、動いて、仕組みがわかる。この3つが揃う領域です。

アレクサンダー・カルダー

1898–1976 / アメリカ

モビールの発明者。風で動く抽象彫刻を生み出し、キネティックアートを確立。

テオ・ヤンセン

1948– / オランダ

風力だけで砂浜を歩くストランドビースト。物理学者からアーティストへ転身。

デイヴィッド・C・ロイ

現代 / アメリカ

木製キネティック彫刻。ゼンマイ一巻きで40時間以上動き続ける作品を150点以上制作。

アンソニー・ハウ

現代 / アメリカ

風力で回転する大型金属彫刻。2016年リオ五輪閉会式で聖火台を制作。

世界の動く木製玩具

振り子、重心移動、回転——各地に伝わる「動く木」の文化

電気もバネも使わず、重力と重心移動だけで動く木製玩具は世界各地に存在します。 ロシアのボゴロツクでは400年前から振り子で動く木彫り動物が作られ、 インドのタンジャヴールでは半球形の底面で揺れ続ける人形が数百年の歴史を持つ。 YURAGIの「揺れ」は、こうした世界の民俗玩具の系譜にもつながっています。

ボゴロツク木彫り

ロシア / 400年

振り子で動く木彫りの動物。鶏がエサをつつく、熊が木を叩く。18名の職人が伝統を継承。

タンジャヴール人形

インド / 数百年

半球形の底面で揺れ続ける首振り人形。重心移動で自己復帰する。2008年GI認証取得。

エルツ山地の工芸

ドイツ / 数百年

くるみ割り人形、煙出し人形。一体あたり120の工程、60の部品。鉱山閉鎖後に木工産業へ転換した歴史。

赤べこ

日本・会津 / 400年

首が揺れる張り子の牛。疫病除けのお守りとして伝わる。YURAGIの「揺れ」に通じる民俗玩具。

機械機構の基礎

からくりを動かす5つの原理

カム機構

回転運動を往復運動に変換。茶運び人形の首振りや腕の動きに使用。

リンク機構

複数の棒を連結して複雑な軌道を生成。テオ・ヤンセンの歩行機構はこの応用。

歯車機構

回転の速度・方向を変換。遊星歯車は小さなスペースで大きな減速比を実現。

振り子機構

重力による自己復帰運動。ボゴロツクの木彫り動物やタンジャヴール人形の原理。

ゼンマイ・重錘

動力源。ゼンマイは携帯性、重錘は長時間駆動に優れる。

からくり、オートマタ、キネティックアート、民俗玩具—— 「木が動く」という営みの歴史の上に、YURAGIは立っています。